今回は、2月に訪問したコンゴ民主共和国(DRC)の「ボノボの里」Mbali地区についての、取材報告第3弾です。今回は、ボノボの観察についてご報告したいと思います。 出張の際に出会ったボノボたちの動画はこちらから☟ Mbali地区で保全活動をおこなっているNPOボー・モン・トゥール(Mbou Mon Tour:MMT)は、エコツーリズムを盛り上げることによる地域振興を目標の一つとして掲げています。安定した雇用を生み出す企業活動や産業が乏しいこの地域では、住民は自給的な農耕に生活を頼っています。日々の糧には困らないかもしれませんが、教育や医療を受けるにはある程度まとまった現金を工面する必要があります。 そのため、エコツーリズムにより旅行客がやって来るようになれば、地域にお金が入り、ツーリズムを維持するための雇用が生み出されることが期待されています。さらにエコツーリズムからの利益は、MMTによる保全活動を後押しすることにも繋がります。 MMTが掲げるエコツーリズムの目玉となるのは、もちろんボノボです。世界広しといえども、ボノボが生息しているのはDRCの一部だけです。そして、コンゴ広しといえども、野生のボノボを観察することが出来る場所で、普通の旅行客にもアクセスが容易なのは、実はMbali地区しかありません。そのため、MMTは霊長類学者やWWF(世界自然保護基金)DRCと連携しながら、ベースキャンプ近隣のボノボのグループの追跡を行い、個体識別やポピュレーションの推移、そして人づけといった、基礎調査的な活動もおこなってきました。 今回の現地訪問では、MMTのゲストハウスに一番近いNkala村のボノボを見に行くことが出来ました。ボノボは毎日森の中を移動しており、決まった寝床はありません。そのため、思いつきで森に入っても、なかなか彼らと出会うことは出来ません。そこで頼りになるのが、ボノボの追跡を行うトラッカーたちです。現地ではフランス語でピステールと呼ばれる彼らは、ボノボの追跡と観察のスペシャリストです。彼らは、ボノボが地面に残した痕跡を辿り、そして見事に発見することが出来れば、夕暮れまでグループを観察しながら一緒に移動します。日が暮れる頃になると、ボノボたちは樹上にベッドを作り就寝し、朝まで移動しません。トラッカーたちは、ボノボが寝るのを見届けてから、集落へ戻ります。このように、ボノボたちの寝場所を確認しておけば、翌朝、確実にボノボを観察することが出来るのです。 観察の当日は、まだ日も昇らない4時に起床し、簡単な朝食をとって4時50分にMMTのランドクルーザーに乗り込み出発でした。5時15分頃、10キロほど走ったところで下車し草原に入っていきます。遠くにうっすらと森が見えますが、まだまだ真っ暗なので、ヘッドランプの明かりを頼りに進みます。夜露に濡れた草原をかき分けて進むので、カッパやウィンドブレーカーは必須です。 やがて、草原が終わって木々が立て込むようになります。ボノボの棲む森に到着です。しばらく進むと、急に下り坂になり、沢を越えると今度は急な上りです。息を荒くしながら上ると、さらに森の木々も密度を増していき、どんどん歩きづらくなってきます。やがて、先を進むトラッカーたちが足を止めて林冠を見上げ始めました。ボノボたちのベッドに到着です。時間は5時55分でした。下車してから40分程度でボノボのベッドまでたどり着いたことになりますので、今回はラッキーだったかもしれません。 とは言え、林冠からうっすらと見える空は徐々に明るくなってきていますが、木々の根元にいる我々の周りはまだまだ薄暗い状態です。トラッカーたちが、あそこにベッドがあるよと教えてくれるのですが、なかなか見えません。しかし、夜が明けて行くにつれ、ボノボたちも目を覚まし、動きはじめました。数十メートル離れた樹上で、枝の上を軽々と行き交いつつ、たまに立ち止まったり枝に座ったりしながらジッとこちらに顔を向けます。いつもと違う見慣れない人間(私たちのことです)がいるので、彼らも気になっているようです。こちらも思わず、リンガラ語で「こんにちは」という意味の「ボテー!」と声を漏らしてしまいました。やがて、彼らも慣れて興味を失ってしまったのか、こちらにはほとんど興味を示さなくなり、最初のビデオにあるように、忙しく樹上を行き交いながら木の実を食べたり、ビャー!っと鳴いてケンカをはじめたりしました。 そうしたボノボの様子を観察しながら、トラッカーたちがこの森に棲むボノボのグループについて説明してくれます。彼らによると、現在、Nkala村の森に住むボノボはオス5頭、メス3頭、子供3頭の計11頭のグループです。以前はもっと大所帯だったそうですが、人間からうつされたであろうインフルエンザが大流行し、個体数を減らしてしまったそうです。よく人に慣れたグループは、すぐ近くまで寄って観察することが出来ますが、同時にこのような感染症のリスクが出てきてしまいます。ただ、Nkalaのグループは数を減らしてしまったとは言え、幸いなことに3頭の雌がそれぞれ子育ての真っ最中でしたので、これから個体数が戻っていくことも期待できます!
その後も観察を続けていると、夜も明けきった7時頃から、ボノボたちは樹上から地面へと下りはじめました。移動です。もちろん我々も、トラッカーたちを先頭に後を追います。ボノボは入り組んだ下生えの間をすり抜けてヒョイヒョイと進んでいきますが、人間はそうはいきません。藪があれば迂回し、歩きやすいところを通っていくので離される一方です。たまに追いつくと、最後尾のボノボが「おや、まだ追いかけてきてたの?」とばかりにこちらに一瞥をくれますが、もちろん彼らはわれわれを待ってくれません。足を止めることもなく、どんどん先に進んで行ってしまいます。 そのまま、ボノボたちはマランタセ(クズウコン科の高さ2メートルにもなる巨大な草)の群生地に入り込んでしまいました。人間にとっても美味しい総菜になりますが、彼らはこの新芽が大好きなのです。でも(ボノボたちには何ともないのかもしれませんが)人間がこの密生した藪の中を進むのは骨が折れ、しかも観えないところで何時間も食べたり昼寝したり...トラッカーたちのアドバイスに従って、この日は9時頃に観察を切り上げました。 また別の日には、ゲストハウスから歩いて行ける森に、まだ人づけされていないボノボがいるということで、そちらの確認にも行きました。徒歩で30分程度のところにある森で、流石にボノボの観察はかないませんでしたが、真新しいベッドの残骸を発見! 確かにこの森にボノボのグループがいることがわかりました。同行していたMMTのキャンプマネージャーのイノサン氏も手応えを感じたようで、代表の岡安の勧めもあって、この森のボノボたちの人づけを始めるとのことでした。ゲストハウスから徒歩圏内でボノボを観察できるとなれば、ボノボ・エコツアーの魅力がさらに広がります。 今回の現地訪問では、このような今後の展開に繋がる希望も、確かに見ることが出来ました。(山口)
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今回も、前回に引き続き2月に訪問したコンゴ民主共和国の「ボノボの里」Mbali地区について、報告したいと思います。 第2弾は、現地で保全活動を行う地元NPOのMbou Mon Tour(MMT)の、ゲストハウスについてです。MMTのベースキャンプは、NPOの主要メンバーであるNkala村から約2キロ離れたところに作られています。ここは、ボノボ・グループを人の存在に慣らしてエコツーリズムを可能にする「人づけ」トラッカーやガイドチームの拠点、村人を対象に環境教育や研修を開催する会場、などさまざまな目的に使われていますが、これから盛り立てていくエコツアーのゲストハウスでもあります。 MMTの代表はNkala村出身のジャン・クリストフさんですが、その繋がりで彼の家族が場所を提供しました。ちなみに、現在のNkala村の村長さんはジャン・クリストフさんのお兄さんです。村長さんは、今回の我々の訪問をとても喜んでくれました。 冒頭のビデオをご覧いただけば分かるように、現在、MMTのゲストハウスには従来からある母屋とキッチン、それから2022年に建設された新しい宿泊棟があります。新しい宿泊棟は各部屋にトイレ、洗面台、そしてシャワーが設置されています。屋外のタンクから水を引いていますので、蛇口をひねればちゃんと水が出ます。また、ソーラーパネルとバッテリーで太陽光発電していますので、夜になれば部屋ごとに電気をつけることも出来ます。 母屋にはサロンがついていて、そこで食事をしたり談笑したりできるようになっています。また、「世界ボノボの日」に現地からお送りした第3回のイベントでもお話ししましたが、衛星通信を利用したインターネット回線が引かれています。そのため、コンゴの奥地であるにもかかわらず、スマホでメールや日本のニュースを確認したり、SNSを見られたりします。すごい時代です。 Mbali地区を訪れる旅行者からすると、デジタル・デトックスという意味では良くないかもしませんが、いざという時の連絡が容易につくという大きなメリットがあります。 ちなみに、MMTはこの衛星通信のシステムを、福祉の一環として近隣の村々にも導入し始めています。 Mbali地区の住民も、前回の報告に出てきたコンゴ河の港チュンビリまで出れば携帯電話網にアクセスできるため、スマホを所持している人は少なくありません。しかし、自分の村にまで電波が届くことは稀なケースです。このように、比較的安価な衛星通信システムが導入されることで、住民たちは地方都市や首都キンシャサなどに住む親戚と連絡が取りやすくなったと喜んでいました。 キッチンでは、MMTの調理チームが美味しいご飯を準備してくれています。22年には、UAPACAAパートナーズからの委託事業の一環として、MMTが主催で旅行者に対する接客講習会が地元の人々を集めて実施され、そこでは料理のメニューや調理法などについても検討されたそうです。 定番のニワトリの煮込みの他にも、地元の川で獲れた川魚、マカヤブという塩蔵魚や燻製魚など、バラエティ豊かで楽しめました。食事については、事前にMMT側に好みなどを伝えておくと、出来る範囲で柔軟に対応してくれそうです。今回も、日本人が来るからとわざわざキンシャサでタイ米を買って準備してくれていました。反対に、もっと地元料理を食べたい!という場合は、旬の野菜や野草を手配してくれます。今回のヒットは、野趣あふれるわらびの煮浸し!! 全体として、ゲストハウスでは非常に快適に過ごすことが出来ました。 次回は、ボノボの観察について書きたいと思います(山口)。 (つづく) 新しい年度が始まりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。山口です。 今回から3回に渡って、先日の第3回オンラインイベントの報告記事では触れなかった、2月のコンゴ民主共和国(DRC)への出張で見聞きしたことを皆さまにご報告したいと思います。 今回の出張先は、これまでにもイベントやこの一連の記事でご紹介してきた、DRC、マイ・ンドンベ州の「ボノボの里」であるMbali地区です。こちらももはやお馴染みとなってきた(?)、現地で保全活動を行っている地元NPO法人のMbou Mon Tour(ボー・モン・トゥール;MMT)とUAPACAAパートナーズが共に実施する、エコツーリズム振興プロジェクトについて現地取材をするのが目的です。 2月6日に日本を出国しパリで一泊、DRCの首都キンシャサに到着したのは7日の日没後でした。約半年ぶりのキンシャサは、相変わらず熱気に満ちあふれていました。実は、預けていたスーツケースがロストしてしまい出だしからトホホな状態だったのですが、人びとのエネルギーで少しは癒やされたように思います。 2月8日は、先着していたUAPACAA代表の岡安と合流し、MMTのキンシャサオフィスに向かいました。代表のジャン・クリストフ氏と経理・総務部長のミシェル氏に挨拶し、今回の取材に同行することになっている副代表のクロード氏、Mbali地区でのゲストハウス管理ディレクターのイノサン氏、MMTが提携しているカメラマンであるベテル氏らと打ち合わせをしました。 2月10日に、いよいよ出発です。コンゴ河のほとりにあるヨットクラブから、Mbali地区の最寄りの港町であるチュンビリに向かいます。今回利用した高速艇は、実際のエコツアーでも用いられるものです。 出港は11時過ぎでした。乗り合わせたのは日本人2名、MMT関係者3名、船員2名の計7名です。映像を見ていただければ分かりますが、ホントに早い!雄大なコンゴ河の水面を、まさに飛ぶように走り抜けていく感じです。帰路にGPSで確認したところ、下りでしたが時速70キロメートル近く出ていました。 コンゴ河は、世界第2位の流域面積を誇る大河です。その流域に広がるコンゴ盆地の熱帯林には、ゴリラやチンパンジー、そしてボノボといった稀少な類人猿を含む多種多様な固有種が生息しています。生物多様性という観点から非常に重要であると同時に、古くから人と物の移動に欠かせない、いわば中部アフリカの大動脈ともいえる役割を果たしてきました。 今回の船旅でも、住民の足であり水上版「長距離バス」であるバリニエが、頻繁に行き交っていました。映像にも出てくるバリニエは木製の大型客船で、数日間かけて河川沿いの町を往復しています。また、タグボートに押されて進む水上版「貨物列車」は、荷物の上に人びとがテントを張って生活しているため、さながら「動く町」と化しています。約10年前、初めて目にしたときには、あまりのスケールに目を疑いました。 こちらは、首都キンシャサと中東部の大都市キサンガニの間を、数ヶ月かけて往復しているものもあります。ちなみに、食料は川沿いで生活している人びとから買うそうです。船が通りかかるのを待ち構えていて、カヌーで売りに来るとか。 我々の利用したMMTのモーターボートは、キンシャサからチュンビリまでを5時間ほどで行ってしまいますし、船内には水も軽食も用意されていましたので、ご安心ください! チュンビリからは、これまたMMTの所有するランドクルーザーで移動…のはずが、ここ数日の雨で、道中の湿地帯にかかる橋が落ちかけているとのことで、バイクタクシーに乗せてもらって、MMTのゲストハウスへ向かいました。 なんだかんだで到着は夜8時になりましたが、用意されていた地元料理がとても美味しく、「あぁ、コンゴに帰ってきたなぁ」と大感激で長旅の疲れも吹き飛びました。 (つづく) |