ブータンプロジェクト
自然保護は「国民総幸福」の証し、秘境ブータンの豊かな野生動物たち 東ヒマラヤの山麓に、国土の半分以上が保護地域、という国があるのをご存知ですか? インドと中国に挟まれたブータンです。九州とほぼ同じ面積の、人口77万人ほどの国。 経済成長に偏らない、国民生活の豊かさを示す「国民総幸福」で知られるようになりました。その幸福量を上げる要素に豊かな自然環境が位置づけられ、自然保護先進国としても世界に認められています。 |
東ヒマラヤ:世界有数の野生動物の宝庫
南アジアの水瓶としても重要な森
ミャンマーの西端から中国、インド、ブータンからネパール東部に続く、ヒマラヤ山脈の南麓に広がる森林地帯は、アジアゾウとインドサイ、そしてベンガルトラの3大哺乳類の重要な生息地であり、生物多様性のホットスポットとして注目されています。サルの仲間も多く、ハヌマンラングールやゴールデンラングール、アカゲザルやアッサムモンキーたちが暮らしています。
この森林生態系が優先的に守られるべきなのは、稀少な野生動物の宝庫であるばかりでなく、世界の屋根、ヒマラヤ山脈が直面する温暖化の影響を緩和する、重要な役割を担っているからです。中国とインドという二大新興国が軒を接し、世界で最も人口が急増している地域のひとつでもあり、森林の減少も著しく対策が急がれます。
山肌に広がる森林は、ヒマラヤの氷河から流れ出す水を涵養し、降り注ぐモンスーンの雨を溜め、マナス川からブラマプトラ河に供給する水瓶にもなっています。インド洋に向かうこれらの大河の下流では、何億もの人々がこの水に頼って暮らしていますが、このまま温暖化が進めば、ヒマラヤの平均気温は地球全体の2倍の勢いで上がると予想されており、深刻な水不足が懸念されています。
山肌に広がる森林は、ヒマラヤの氷河から流れ出す水を涵養し、降り注ぐモンスーンの雨を溜め、マナス川からブラマプトラ河に供給する水瓶にもなっています。インド洋に向かうこれらの大河の下流では、何億もの人々がこの水に頼って暮らしていますが、このまま温暖化が進めば、ヒマラヤの平均気温は地球全体の2倍の勢いで上がると予想されており、深刻な水不足が懸念されています。
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「自然保護先進国」のプロジェクト
ブータン国内には、北部の7,000メートルを超えるヒマラヤの高山帯から、南部の標高150メートルの亜熱帯まで、変化に富んだ生態系が広がっています。またアジアでも屈指の「森の国」であり、国土の72%が森林におおわれ、急峻な山肌を縫う河川を潤しているのです。この森と自然を守るため、国土の実に52%が、国立公園などの保護区と、その保護区を結ぶ「緑の回廊(コリドー)」として、法的な保護の下にある地域に指定されています。中でも南部のインド・アッサム州との国境沿いには、マナス川の両岸に手つかずの亜熱帯森林が広がり、アジアを代表するベンガルトラやアジアゾウ、インドサイが同じ地域で暮らす、今や世界でも有数の野生動物の楽園となっています。写真にある珍しいゴールデンラングールの生息地も、このマナス川流域に限られているのです。
しかし、インド側で長年続いた民族紛争の影響で、2000年代初めまで民兵が保護区の森に立てこもり、保全が停滞する状況が続いていました。また最近は、インドでは人口増加に伴う開発が急速に進み、国境を越えてブータンに侵入し、密猟や違法伐採を行うケースも頻発しはじめました。
TraMCAランドスケープ
国境を越えたマナス保全地域
そこでこの貴重な自然を守るため、2012年、ブータン政府とインド政府はWWF(世界自然保護基金)東ヒマラヤ・プログラムの呼びかけに応え、国境地帯の10ヵ所の国立公園や野生生物保護区をコリドーでつなぎ、ひとつの大きな保護区にする試みに着手しました。「TraMCA (Transboundary Manas Conservation Area=国境を越えたマナス保全地域)構想」は、ブータンからインドを通り、大河ブラマプトラ河へ注ぐ、マナス川を中心に展開しています。
Googleマップで見られるように、大河の河川敷から亜熱帯雨林につながるこの地域は、特にインドサイやアジアゾウの生息地として重要で、これら大型獣のためにまとまった森や草原を残そうという構想がTraMCAです。経済発展と人口増の著しいマナス地域の開発が持続可能であるために、保護と利用のバランスを取ることも欠かせません。保護区だけの枠組みに捉われない、広い視野で地域の土地利用のメリハリをつけていく必要があります。また、犯罪者が逃亡しやすい国境地帯を中心に発生している、密猟や違法伐採の取り締まりを、両国が連携して強化することも重要です。
ブータン側には、ロイヤル・マナス国立公園を中心に、西にフィブソ野生動物保護区、東にジョモツァンカ野生動物保護区(もとのKhaling Wildlife Sanctuary)の3つの保護区が点在し、あいだをつなぐ緑の回廊(コリドー)となる指定地域が設定されています。保全推進の手はじめとして、2012年からの4年間に、TraMCAに含まれる保護区の現状を把握する生物多様性基礎調査とモニタリングが、日本の研究者やインドの自然保護NPOの支援なども受けて開始されました。
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次のステップへ
基礎固めの第一段階として行なわれた2012年からの活動では、保全のレベルアップに必要な体制を築くことができました。ブータン政府はこれをもとに、TraMCAランドスケープが目指す最終目的へ向けて次期中期計画を策定し、WWFブータンの支援のもと第二弾を実施しています。ここでは5つの保全目標が定義され、各目標の下に方針が定められました。
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UAPACAA国際保全パートナーズからの支援
TraMCAランドスケープの次期中期(3年)計画は、自然科学的な基礎を土台に、具体的な現場の保護・保全を前進させる重要な移行段階に位置づけられています。科学的には、生物多様性を理解する上で明らかにしなければならない、多くの生物種の実態がまだまだ未調査です。他方、トラやゾウに関しては、調査結果にもとづいた具体的な保護策の実施が急がれます。また、保護の担い手である地元のコミュニティのための、地域振興策を確実に進めることも重要です。
UAPACAA国際保全パートナーズでも、長年、現場にかかわってきたスタッフが、ブータンTraMCAランドスケープへの技術支援、また、現場の活動に対する資金的支援を行ってきました。
その結果、ブータン政府が国策としてももっとも力を入れているトラの保護に関しては、ロイヤル・マナス国立公園は、北隣のジグメ・シンゲ・ワンチャク国立公園とともに、世界でもトラ保護管理が最高レベルにあるという、「CA|TS(トラ保護保証基準)」委員会の認定を2019年末に取得することができました。
UAPACAA国際保全パートナーズでも、長年、現場にかかわってきたスタッフが、ブータンTraMCAランドスケープへの技術支援、また、現場の活動に対する資金的支援を行ってきました。
その結果、ブータン政府が国策としてももっとも力を入れているトラの保護に関しては、ロイヤル・マナス国立公園は、北隣のジグメ・シンゲ・ワンチャク国立公園とともに、世界でもトラ保護管理が最高レベルにあるという、「CA|TS(トラ保護保証基準)」委員会の認定を2019年末に取得することができました。