本日、7月31日は世界レンジャーの日(World Ranger Day)です。レンジャーは、世界各地で国立公園や鳥獣保護区などを警備し、野生生物を守る業務に就いています。 UAPACAAパートナーズが支援するブータンのTraMCA(国境を越えたマナス保全地域)でも、多くのレンジャーが活躍しています。ブータンは国土の72%が森林に覆われ、そのうち50%以上が保護区で、ベンガルトラやアジアゾウなどの貴重な動物が数多く生息しています。その一方で、人と野生動物の軋轢や、密猟などの問題、特にインド・アッサム地方の治安の悪化の影響で国境を越えてやってくる密猟者など、解決をレンジャーたちの力に頼らざるを得ない課題が多くあります。 2019年にWWF Internationalが実施した、世界のレンジャーを対象に行った意識調査によると、ブータンを含む南アジア諸国では、8割以上のレンジャーが任務中に密猟者や野生動物との遭遇などで、生命の危険を感じる状況に直面したことがあると回答。また約6割のレンジャーが装備が不十分だと感じ、4割強が十分なトレーニングを受けていないと答え、待遇や状況に不安を感じていることがわかりました。 TraMCAで活動をするレンジャーたちも、深い森の中での密猟者の取り締まりや、地域社会で起こる野生動物と人との軋轢への対応などの任務に追われています。野生動物も人間も、どちらも命を落とすことがないように、地域コミュニティと野生動物のあいだに立ちつつも、緊張感のある対応が求められています。また、パトロールは1回に2週間以上と長期にわたるため、家族と過ごす時間も惜しんで任務に当たる、使命感の強いレンジャーが多いのも実態です。 UAPACAAパートナーズに現地から要請が届いている支援の1つが、TraMCAに生息するアジアゾウを守るため、パトロールを効率化するSMART(Spatial Monitoring and Reporting Tool:地理情報モニタリングと報告ツール)」システムの充実と運用の人材育成・研修の実施です。 先日発表された、ロイヤル・マナス国立公園におけるSMARTシステムの5年分のモニタリングデータを分析した論文では、GIS(地理情報システム)で動物の痕跡や密猟の発生場所をフィールドで直接記録し、パトロールを優先かつ重点的に行う地域の分析がシステム上で一元管理できるようになり、密猟防止対策の効率が向上したことが示されました。 しかし、こうした先進的なシステムの導入には、導入費用は当然のこと、さらにシステムを使用するレンジャーや地元の人々へのトレーニング費用に、年間100万円以上が必要になってきます。 現在、世界を襲っている新型コロナウイルスのパンデミックによる影響も、保護区の管理ひいては野生動物の保護にどう影響していくのか、レンジャーたちも先が見えず不安な状況が続いています。 このような状況下だからこそ、野生動物を守るためには、効率的な管理システムの導入とレンジャーなど野生動物保護のフロントラインに立つ人材の育成への支援が、優先かつ重要な取り組みになります。そのために「いま」日本からできることを、みなさまのお力を借りながら支援していきたいです!ご協力をよろしくお願いします。
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先月、インターネットの話題をさらったさまようゾウの群れ。2020年3月から、中国南西部から昆明まで500km以上移動を続けた彼らは、移動中に食べ物や水を探し求める中で、人間と接触したり、農地を破壊するという問題を起こしました。この間に、アメリカのアイダホ州では、オオカミが牛や羊を襲うことが引き金になって、州に生息するオオカミを最大90%まで殺処分する法案が可決されました。 「人と野生動物の軋轢(Human-Wildlife Conflict:HWC)」ー野生動物と人間社会の距離が縮まってしまったことで、動物たちは畑や農園に姿を現し、農作物を荒らすようになりました。人間は防衛や、農地を荒らされたことへの報復で動物を殺し、動物たちを絶滅に追いやることに繋がっています。 また、軋轢によって起こるのは、単に収入源を絶たれるだけではありません。世界中の大多数の人々が、保護された野生動物と生態系サービスの恩恵に浴しているのは明らかなのに、HWCによる傷害や死亡、財産や生活の喪失など人への影響は、農民、遊牧民、漁民や先住民、中でもいまだに貧困にあえぐ人々にとって、安全や生活の基盤を脅かすほど深刻であるにもかかわらず、相応の配慮がなされていないのが現実です。また、地域の水源を野生動物たちと共有するコミュニティにとっては、水源へのアクセスが妨げられるなど、野生動物と共存する人々は代償を払うばかりで恩恵を受けることが少ないため、不平等が広がっています。 このようにHWCは、自然保護の課題であると同時に、開発や人道上の課題でもあります。持続可能な開発目標(SDGs)の中でも 、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」などに大きく関連しているにもかかわらず、政策担当者はHWCを看過しています。2030年までにSDGsを達成するためには、SDGsの実行計画の中にHWCの解決を明記するともに、生物多様性条約の新たな枠組みの中心に盛り込む必要があるでしょう。 今回、世界自然保護基金(WWF)と国連環境計画(UNEP)が発表した報告書では、HWCが、トラやゾウなどの象徴種の長期的な生存の主たる脅威になっていると警告をしています。特に、世界の野生ネコ種の75%以上がHWCによる殺害の被害を受け、ホッキョクグマやチチュウカイモンクアザラシなど多くの陸棲・海棲の肉食動物や、ゾウなどの大型草食動物にも影響を与えている事を強調しています。 これらの野生動物はすでに、気候変動の影響、森林破壊による生息地の減少、野生動物の違法取引、など数々の要因によって数を減らし、とうとう人との軋轢も加わった現在、絶滅の淵へと追いやられています。 本報告書では、HWCを根絶することは不可能ではありますが、地域コミュニティの全面的な参画を得て軋轢を減らし、人と野生動物の共存につながるアプローチがあると示しています。その成功例のひとつは、アフリカ南部のカバンゴ・ザンベジ国境を越えた保護地域です。家畜がライオンに襲われる事例は、放し飼いをされている牛たちが、夕方から夜にかけて行動をする場所で発生しているというコミュニティからの報告を受け、リスクの高い地域に固定式・移動式のライオン防止柵を設置したところ、2016年には家畜がライオンに襲われる事象は95%も減少し、ライオンを報復によって殺すことも0件(2012年と2013年は17件)となり、絶滅が危惧されたライオンの地域個体群の回復にも繋がりました。
HWCを目の前にしたことがない人でも、Wildlife Friendly Enterprise Networkやレインフォレスト・アライアンスなどの団体が認証したHWCフリーの製品を探すことで、この問題への取り組みに参加することができます。HWCを減らすことは、生物多様性や影響を受けるコミュニティに恩恵があるだけではなく、社会、持続可能な開発と、生産、ひいては世界経済全体にも好機と利益をもたらすのです。 報告書「THE NEED FOR HUMAN-WILDLIFE COEXISTENCE」はこちらから(外部サイト) 日本の動物園でもおなじみのアジアゾウ。 アフリカゾウに比べて人に馴れやすく、アジアの国々では古くから使役されて、農作業や林業などの現場でその力持ちぶりを発揮してきました。コロナ禍が広がる前は、観光業の興隆によって観光客を乗せて案内するゾウが人気となり、同時にその訓練の様子が動物虐待に当たると問題化するなど、良くも悪くも話題を呼びました。聖徳太子の時代から、アジアの宝物を通じてその存在を知られていたゾウ🐘 童謡で一番人気の「ゾウさん」と相まって、日本では身近な野生動物の筆頭の一つと言えるでしょう。 さて、そんなアジアゾウですが、実は野生のゾウは減り続けているのをご存じですか? 絶滅危惧種の状況をモニターする国際自然保護連盟(IUCN)の「レッドリスト」によると、インドから中国、東南アジアの広い範囲に生息する野生アジアゾウは、推定で4万頭~5万頭が残るのみと考えられています。多くの個体群が急速に発展してきたアジア諸国の経済開発で棲み処を失い、分断された狭い森やサバンナの中で生き残りをかけている状況です。 この数字は、今までUAPACAAパートナーズで中心的に扱ってきた、アフリカのマルミミゾウの問題と比べても深刻と言えます。マルミミゾウは初めてアフリカゾウを2種に分けた評価の結果、過去31年で86%が失われたとされ、レッドリストでの扱いも今年の3月にそれまでの危急種(VU)から絶滅寸前種(CR)へと、一気に2ランクもアップしてしまいました。それでも、現在の推定個体数は約10万頭(2016年のアフリカゾウ推定415,428頭の1/4)と、まだアジアゾウの倍程度は残っているとされています。 レッドリストでは、2018年段階で、世界に残されたアジアゾウのうち3万頭弱がインドに生息していると推定されています。ただ、この数字も場所による調査方法や現地住民への聞き取り方法の違いなどで正確な比較ができず、ただの予想に過ぎないという指摘もあり、広い範囲を動き回る大型野生動物の個体数推定の難しさを表しています。いずれにしても、アジアのゾウの全個体数の60%以上がインドにいることは、間違いないようです。トラの生息数も圧倒的に多いインドの自然保護の成果がうまく働けば、アジアゾウにも恩恵をもたらしてくれることでしょう。
UAPACAAパートナーズが協働するブータン南部のTraMCAは、レッドリストの地図でもわかるようにインド・アッサム州のブラマプトラ河流域と連続する、アジアゾウにとっては残り少ない広大な生息地を抱える重要地域となっています。インドではメスの集団は550~700㎢もの広範囲を利用するとの推定も出ており、トラの場合と同様、TraMCAの保護区を繋ぐ国境を越えた保全地域が守られるかどうかが、アジアゾウの生き残りにも大きなカギを握ることになりそうです。 ブータン政府は2019年~2029年のゾウ保護計画(ELEPHANT CONSERVATION ACTION PLAN FOR BHUTAN)を策定し、生息地保全や地域住民との軋轢(Human Wildlife Conflict)の解消に乗り出しました。昨年から、インターネット上で大きな注目を浴びている、中国南西部・雲南省のさまよえるゾウの群れの問題が象徴するように、各地で人口が急増するアジアで人と隣り合って暮らす野生ゾウの保護の緊急性は、待ったなしの状況まで追い込まれてきました。 UAPACAAパートナーズでも、自然保護先進国ブータンの野生ゾウ保護活動を全面的にバックアップするため、緊急支援のキャンペーンを立ち上げました。皆さまのご協力をよろしくお願いいたします! (キャンペーンは2021年9月末に終了しました。ゾウ保護プロジェクトへご支援募集中です!) |