カメルーン東南部には狩猟採集民バカ・ピグミーが住んでいる。彼らは森のすぐそばで暮らし、狩猟採集のため、一年に何度か森へ数週間〜数ヶ月のキャンプに出かける。ピグミー系の民族集団はコンゴ盆地周辺に8つ散在している。ピグミーの共通点は成人で男性でも150㎝ほどで狩猟採集を営み、独特の歌と踊り、「森の精霊」が登場する儀礼を持っていることだ。この儀式は基本的にキャンプに行った際に森の中で行われるものであるが、最近では定住化やキャンプに行く頻度が減少したことから、村の集落でも行われる。 夜、バカは集落の広場に集まり、女性の合唱に合わせて精霊(メ)や呪術師に扮した男性が踊り、歌とダンスを楽しむ。この集いを「ベ」という。べのダンサーは体を痙攣させるように絶えず震え、奇声を発しながら音楽に合わせて動き、集落の将来を占ったり、おまじないをしたり、古くから伝わる精霊の存在を子供達に教えたり、宗教的な側面も持っている。 広場にやってきた人々は、円卓になって専用の衣装を纏ったダンサーを囲む。衣装は干草を幾層にも重ねた腰巻きや、ふさふさの長い帽子のようなものを頭からかぶる。儀礼には10の精霊(ジェンギ、エンボアボア、コセ、エリリ、ビセンジョ、イアンガ、リンボ、コサ、ユア、モンジェケンジェケ、モンゲレボ)が登場し、それぞれ独自のキャラクターを持っている。例えば精霊ジェンギは威圧的で畏れ多い存在と考えられており、女性や子供は近づかない。一方で、精霊エンボアボアはお茶目な性格で子供たちと戯れる。(中部アフリカ研究小論より) ステージの脇には女性たちが並び、裏声を出したり、様々な音を出して多声音声(ポリフォニー)を奏でる。女性は直接儀礼に参加することはできないが、ダンサーの盛り上がりに呼応して強弱をつけながら歌う儀礼には不可欠な役割だ。その他観客たちも声援を送るなどして、みんなが何かしらの形で儀式に加わることができる。 彼らはこのお祭りが大好きで、日常生活でも女の子たちが集まって、場が盛り上がってくると「べ」でよく歌われる歌を合唱したり、踊ったり、または精霊の衣装を有り合わせの材料で作り、ダンサーの真似事をしている子供もいる。 この「べ」は、宗教的儀式とみなされているが、何よりバカの人々が娯楽としてもリラックスできるような、人間どうしの緊張を和らげるようなイベントとなっている。女性のコーラス、パーカッション、ダンサーの声、歓声、衣装の揺れる音、風の音、絶えずアドリブで動く精霊たちのフュージョン。 圧巻のショーは、コミュニティが目指すエコツアーを盛り上げる一翼を担う。サポーターの皆さまにご覧いただく機会を、ウワパカ・パートナーズでも探っていきたい。 2000年代に入ってから、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに載っている、野生動物の乱獲、密輸が増大し、国際問題となっている。サイの角、センザンコウの鱗、トラの皮などが、巨大なアジアの闇市場に向け違法取引されているが、その中でも象牙は目玉商品となっている。
象牙および象牙製品は、ワシントン条約(CITES;絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で外国への持ち出し、持ち込みが禁止されている。ところが新興国などで、富の象徴として需要が増えた結果、ゾウが生息するアジア・アフリカを中心に密猟が多発。売買された象牙は主に中国、インド、東南アジアの市場に渡り、テロリストや犯罪集団に大きな利益が流れていると言われる。 日本国内で流通する代表的な象牙製品は、印鑑や楽器のバチ、ピアノの鍵盤である。そのような小物に使用するだけなら、象牙の量は微々たるものだと思うかもしれない。しかし、実際は多額の象牙が取引されている。 いったい日本のどこに、海外輸出するほどの象牙が存在するのだろうか。もちろん、ゾウを密猟して生産しているわけではない。実は、現在密輸されている象牙の多くは、人々によって長年、家宝として大切に保管されてきたものが多いのだ。おそらく、戦前戦中に東南アジアの方から、当時珍しかっただろう象牙を、お土産として持ち込んだ。 その後、国際的に象牙取引が禁止されて稀少性が高まり、象牙の価値が高騰したため、蔵に眠っていた象牙を、今こそはと売る人が増えたのだろう。国際社会では、このような日本の象牙の備蓄と国内市場が、問題視されている。個人が売りに出した象牙は業者に買い取られ、国内の骨董品マーケットや古物市場に出回る。そこが海外のバイヤーの買い付けの場になっているのだ。また、象牙の価値を知っている外国人をターゲットにした、お土産グッズが販売されていたりする。 このような国内市場から流出した備蓄象牙に、アフリカで大問題になっている大規模密猟の象牙が紛れ込んでも、加工されてしまった象牙を見分けるのはまず不可能だ。知らず知らずのうちに、国際犯罪組織の暗躍に手を貸してしまいかねない事態だが、売り手は違法だと知りながら取引に手を染め、重大犯罪であるという意識が薄いことも問題である。 加えて、近年の情報社会の発展で密輸取引もオンライン化・グローバル化し、さらに押収や取り締まりが困難になっている。個人でも違法市場にアクセスすることが容易になり、痕跡も残りにくくなった。ただでさえ密猟や闇取引を把握するのは難しいのに、より秘密裡に取引が可能になったため、対象野生動物の減少数からしか、密猟や違法取引を数値化できない事態に陥っている。 個人が知らず知らずのうちに密売に加担したり、アクセスのしやすさから犯罪意識が薄まることがないように、今後はE-コマースやプライベートセクターへのアプローチや普及啓発が、いっそう重要になってくるだろう。 カメルーン東南部には、狩猟採集民バカ・ピグミーが広範囲にわたって住んでいる。バカたちは甘いものが大好き。私たちと一緒にコーヒーを飲むときも角砂糖を最低4つ入れ、それでもまだ遠慮しているようだ。バカ語で味覚を表す言葉は甘いか苦いかで、甘い(locoloco)は美味しいと同義で使われている。 もちろん森の中ではお菓子やケーキなどは手に入らないし、村の商店で購入できる砂糖も、気軽に買えるような値段ではない。しかし彼らには、森で採れる絶品のスウィーツがある。それは蜂蜜、バカの大好物だ。 森の蜂蜜にはいろいろな種類があり、一般的な針あり蜂の蜜(ポキ)、針なし蜂の蜜(ダンドゥー・ジェンジェ等)といったように、花の種類、蜜を運ぶ蜂の針の有無、大きさで味や採集量が大きく異なる。 今回は、2018年8月に、針なし蜂の蜂蜜、バカ語でダンドゥー採りに同行したときの様子をご紹介しよう。ダンドゥーは日本でよく売られているものより、さらさらして琥珀色の透き通った蜜だ。ほのかに花の香りがして、後味はブドウの風味がある。ダンドゥーを作る針なし蜂は、普通の蜂の半分くらいの大きさで黒っぽく、見慣れない者はハエと間違えてしまう。この蜂はカメルーン東南部だけでなく、国内全体に生息している。 まず蜂の巣の見つけ方だが、目がとてもいいバカのひとたちは、森を歩いているだけですぐ見つけてしまう。一日森を歩けば3、4個見かけるくらい蜂の巣が豊富で、見つけたらその場で木に印をつける。針なし蜂はヤシの木や太い木を好むようだ。 採集の頻度は決まっておらず、ほかの狩猟採集が落ち着いたころに、蜂蜜取りに出かける。最低2、3人で巣のある場所へと向かい、まず、木の上から蜂の巣を入れて下におろすための、バスケット製作が始まる。しなりやすい細めの枝を見つけてきて骨組みを作り、さらに細い蔓(カズラ)で骨組みの回りをぐるぐる巻く。最後にボボコと呼ばれる万能でしっかりしたマランタセイの葉を中に敷いて受け皿にし、バスケットが完成。 彼らはものの15分で仕上げてしまうが、適当な枝や蔓を見つけ、折れないように枝をしならせたりするのは難易度が高く、完成したものは一つの作品のようだった。 バスケットの用意ができたら、コファと呼ばれる小斧とバスケットを持って木に登り、蜂の巣を取り外す作業に移る。20mはある木の上に、バカの人たちは命綱なしですいすい登ってしまう。今回は青年が木に登っていたが、男女で分業されているわけではなく、木登りが得意な人が担当する。 本物の巣は高い木の上で見ていないが、直径30㎝、長さ40㎝ほどの楕円形で、表面はこげ茶の木の皮のような見た目。ポキ(約1m)より小さいが、ダンドゥーの方が重いそうだ。梢の上で、10分ほど斧で木をたたく音がしていた。 これは蜂の巣がかかっている枝を切り落としているのではなく、巣の上部に直接穴をあけ、真ん中にある幼虫が入っている、いわゆる”セル”を取り除く作業の音だ。蜜で満たされたセルの外側を、お手製バスケットに入れ慎重におろす。かごいっぱいに巣が詰まっており、持ってきた容器に蜜を移す。 大体一つの巣から1リットル以上は採れる。大量の蜂と虫が集まってきたが、針なしなので安心だ。巣の破片やセルは無造作に放り投げられ、一滴も無駄にしないという勢いで子供たちが競って拾い、むしゃぶっていた。甘さ控えめなのでバカたちはそのまま飲んだり(甘みの強いポキもごくごく飲む)、調理済みのプランテンバナナやキャッサバ(タピオカ粉の原料)、マカボ(イモ)と一緒に食べたりする。ちなみにセルの部分は苦くそのままでは食べられないが、バカはそれを焼いて水分を出しカリカリにして、蜂蜜と絡めて食べる。作業はおよそ1時間半で終了。今回の蜂蜜採りは、食物採集というよりは、子供たちで楽しくおいしいものを食べに行ったという感じが強く、遊んでおしゃべりしながらたまの贅沢を味わっていた。 センザンコウとは体の表面に硬い鱗を持つ珍しい哺乳類でアリやシロアリの巣を壊し、歯のない口で長い舌を使い捕食する。有鱗目またはセンザンコウ目に属しアジア(4種)とアフリカ(4種)に生息している。古来より、中国やアフリカで食肉用として、また鱗は魔除けや漢方薬・媚薬に使用されてきた。センザンコウは英語で「pangolin(パンゴリン)」と言い、マレー語の「ペングリン(巻き上がるの意)」が由来だと言われている。
止まらないセンザンコウの乱獲 IUCN(国際自然保護連合)によればセンザンコウは「世界で最も非合法で取引されている哺乳類」で、2016年、CITES(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によってセンザンコウ目8種が保護対象になり、国際取引が禁止された。しかしCITESに基づく保護声明は、中部アフリカの諸地域ではあまり効果を発揮していないようだ。アフリカ中部の森で年間42万頭から300万頭近く狩猟され、(生物多様性保全に関する科学雑誌)[ the conservation letters ]によると、1972年から145%も狩猟数が上昇している。特に2000年代から中国への密輸件数が跳ね上がっている。 アフリカではセンザンコウが、ブッシュミート(野生動物の肉)として昔から猟師の標的となってきた。獣肉を食べることは文化のひとつであり、森に棲む自給自足の人々にとって、ごく一般的な食材なのだ。 他方、センザンコウを伝統的医薬の原材料として利用してきたアジアの国々では需要が増えており、狩猟圧が高まっている。この莫大なアジアのニーズに応えるため、アフリカの狩猟ビシネスが塗りかえられた。1972年に比べ狩猟数は増加、現在の価格は2014年の6倍に跳ね上がっている。 地元NGOの動き カメルーンのヤウンデにあるNGO団体のマリウス・タラさんとそのメンバーは、これらのCITESに基づく保護はどれだけ効果があるのかを調査している。彼らはアフリカ中部の6つの国:カメルーン、ガボン、赤道ギニア、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国で、センザンコウの生息状況を把握したいと話している。 カメルーンの政府機関ならびに地元と国際NGOは、センザンコウ保護の大切さを伝えるキャンペーンを開始し、またカメルーン政府は森林野生動物省の推進事業として、これらの保護を法律に組み入れようとしている。ところが、カメルーンの首都ヤウンデや農業の中心地であるエボロワのような大都市でも、レストランや市場でセンザンコウを容易に手に入れられるのが現状だ。 広範囲で法的保護措置が取られているにも関わらず、ではなぜ狩猟が続いているのか。タラさんが言うには、野生動物、とりわけセンザンコウを食べる文化は、森とその周辺に暮らす人々だけでなくカメルーン全体に及んでおり、国民は狩猟禁止の理由に納得がいっていないそうである。また野生動物保護に使うための資金が不足しており、国内10地域全体の保護予算はたったの$880であった。 さらに政府内の汚職なども、乱獲を継続させている原因だ。政治が腐敗すれば公平な再分配や社会保障が滞り、格差と貧困が悪化する。そしてお金欲しさに高額な仕事、犯罪に手を染めるという悪循環が続く。 タラさんたちは、絶滅の恐れのある種の保護強化に向けては、何が必要な施策なのか徹底的に調査していくとともに、政府の腐敗を一掃することが鍵になると述べている。健全な国家経営に向けて、国際社会の支援と監視が求められている。 2014年2月12日、イギリス政府の呼びかけで、国際的な野生動物違法取引対策(IWT)に関する史上最大規模の会議が開かれた。この会議でIWTに関するロンドン宣言(London Declaration on the Illegal Wildlife Trade)が打ち出された。
2014年から3回の会議を経て、昨年10月11、12日に再びロンドンでIWT(野生動物の違法取引)会議が催された。4年前のロンドン会議は違法取引問題の分岐点であったはずだが、残念ながら未だ目覚ましい成果は見られず、野生動物の減少を食い止めきれていない。 その理由として、違法取引の主な供給国となっているアフリカで、不安定な政治や国家予算不足により、レンジャー(密猟取締隊、パトロール隊)の派遣など、ロンドン宣言に沿うような対策を十分、実現できなかったことが挙げられる。これを受け、今後は以下の3つのポイントに、より注力していくことになった。
4回にわたる会議で「国際社会の連携、多面的な対策」が強調されてきたが、各国で温度差があるようだ。特にアフリカでは、ただでさえ国家予算が不足し、国民は教育や社会保障など満足に受けることが出来ないのに、なぜ人間より動物を優先するのかという批判もあるだろう。先進国の中でも、今のところ、これといって画期的な取り組みは見られず、消極的な態度も伺える。 IWTの問題が厄介なのは、現状を数値化するのが難しい点だ。もともと”密猟”なので、正確にどのくらい動物が減ったのか特定できず、密猟品の押収が増えても密猟自体が減ったのかどうか特定するのは難しい。野生動物を相手にする上で、このIWT自体が持つ、数値化できない性質が4年間の努力を見えにくくし、参加国のモチベーションを下げているのかもしれない。 グローバリゼーションとともに、世界中に広がってしまった野生動物の違法取引。目に見える成果、数字ばかりを追うと、見落とす課題も多い、国際社会の闘いである。 |