ボノボは、DRCにしかいない固有の類人猿です。チンパンジーとよく似た風貌を持ち、ジャングルの奥深くに暮らしているために、長い間、異なる種であることがわかりませんでした。19世紀には、ヨーロッパに運ばれたボノボの標本などもあったようですが、普通のチンパンジーのこともよくわかっていなかった時代、新しい種として記録が残ることはありませんでした。
そんなボノボが、違う種として初めて記載されたのは、1929年、まだDRCがベルギーの植民地だった時代のことです。やがてボノボは、DRCの中を大きく湾曲して流れるコンゴ河と、東から西へ国を横断する支流カサイ河に挟まれた、アフリカ熱帯雨林の心臓部だけに生息していることも判明しました。20世紀に入ってから、このような大型の“新種”が発見されることは稀で、最後の類人猿とも呼ばれています。しかしその後も、コンゴ盆地の深い密林の奥に暮らす彼らの生態は、ほとんど知られないまま1960年の独立を迎えました。 そして1970年代になり、DRC(その当時はザイール共和国)がコンゴ動乱から落ち着きを取り戻すと、この最後の類人猿を求めて、各国から調査隊が訪れるようになります。その一つが日本のアフリカ類人猿調査隊で、人類発祥の地といわれるアフリカの国々で、「野生類人猿の社会から人類社会の進化をたどる」という、壮大な研究テーマを掲げていました。 初期の観察からは、ホカホカやシリツケといった、独特のセクシュアルな行動を持つこと、メスが優位な社会であることなど、見た目が似ているチンパンジーとは、まったく違う社会の様子が次々報告されていきました。似たような種でもこんなに異なる社会を持つのだから、その背景を探れば、人間社会の成り立ちを識るヒントが得られるに違いないと、注目を集めます。 こうして、未知の類人猿ボノボの生態や社会は、徐々に明らかにされたのでした。 |